自分だけの絵画を目指すための研究❷絵の具の重なり[009]


絵の具の重なりに魅力を感じたきっかけ
前回は展覧会などでたくさんの作品を見ながら、自分の琴線に引っかかった「ここ好き!」ポイントを集めました。その中から今回は、実際に描いて気に入った絵の具の重なりについて記載します。
「そのままの色で描かない」ことに惹かれた
最初にきっかけになった出来事は、絵画を鑑賞していて好きだなと思った絵の色でした。
人物の肌の色が肌色だけではなく青や緑など、様々な色を使って描かれていました。
本来の人の肌とは違う色なのに不思議と変ではない。それどころか私の目にはより絵が魅力的に写りました。
当時の私は見本通りに絵を描くということばかりに意識が向いていた頃でしたので、物を色面で捉える方法や、実際に存在しない色を使って書いても良いという考え方は私にとって非常に新鮮なものでした。
物質感のある絵の持つ魅力
公募展などで日本画や油絵を見ていると、時折絵の具が盛られて凹凸が顕著に目立っている作品がありました。
地元の公募展では日本画の方でびっくりするくらい木の幹を盛り盛りの立体で描く方がいました。思わず近くで絵を見たくなる不思議な魅力をもつ絵でした。
その頃から、絵に近づいて作品を鑑賞するようになりました。元より色の綺麗な絵に惹かれやす勝ったため、私は物質感のある絵の中でも絵の具を重ねてできる色の層に関心を持ちました。
他の絵も顔を近づけて作品を見れば、描いた人の腕の動きや絵の具で何度も描いた歴史のようなものがそのまま絵に残っているようで、絵の具の向こうに人の気配が感じられる心地よさがありました。
絵の具で描かれた絵は本当の意味で平面なのではなく、限りなく平面に近いだけで実在する粒子が重なり合ってできた、物質感のあるものなのだと感じました。この図録やデジタルイラストにはない、絵画だからこその魅力に、アナログに絵の具で絵を描く価値を感じます。
1回描いた絵を真っ黒に!?
私が絵の先生に油絵を教わり始めた頃は、初めてF100号という大きな絵を制作してたタイミングでした。
「結構良い感じに描けてきた!」と自分の中で完成が見え始めた頃、その先生に「新しいことを教えたいからちょっと描いてもいい?」と聞かれます。
OKの返事をすると先生は「ちょっと最初は抵抗あるかもだけど…」と言いながら私の推定完成間近な絵をぐるぐると真っ黒に塗りつぶし始めました。その時の衝撃は今でもよく覚えています。

実際に先生が塗りつぶしたF100号の油絵
作品をダメにされた不安や怒りより「え!?これでなんとかなるの!?」という驚きと、続きが気になる気持ちが勝ったことが幸いでした。
時間を描けて描いた絵を壊されてもそこまで拗ねることなく(それでも1週間作品が見れない程度にダメージは負いました)教えを授かることしました。
先生はこの後私に「よし、この上からもう1回描いてみろ」と言いました。
「いや、もう一生懸命描いた後だったんです!」という気持ちを押し殺し、私はぐちゃぐちゃになった絵の上からもう一度同じ絵を描きました。
すると不思議なことに、同じ絵なのに2回目に描いた方が明らかに良い絵になりました。
元の色、汚れた色、上から重ねた色の3つが積層して、絵に重厚感が出ました。ひたすら綺麗な色だけで描くよりも、汚れた上に乗せた絵の具の方がより綺麗さが際立って見えます。
その頃に私にはなぜ絵が良くなったのが十分な理解はできていませんでしたが、「すごい!面白い!」といたく感動しました。それが絵の具を重ねて描く油絵の魅力に取りつかれた一番の大きなきっかけでした。
「絵の具の重なり」を研究する
命名「絵の具の重なり」

キャンバスや厚塗りされた絵の具により、凹凸ができます。表面を撫でるように絵の具を画面に置くと、凹凸があることによって凹んでいるところの色がそのまま残り、出っ張っているところに新しく塗った絵の具が重なります。
その状態で ペインティングナイフで乾く前の絵の具をこすると 今度は へこんだ部分に絵の具が潜り込み 凹凸にはわずかに元の色が見えてきます。
色が重なり、絵の具が凹凸を作り、元々塗っていた色と違う色が見えてくる。
これなら私流の方法で、肌色のものもよく見ると 肌色 以外の 青や赤様々な色で書かれている そんな絵画 ならではの表現が見ていて 魅力的で 自分も書いていて楽しいと感じるものでしたので自分が絵を追求していく上で大切にしたい要素の一つと思いました
デジタルのイラストでは書けない、実際に絵の具という現物があるからこそできる表現に関心を持ちました。私はこれをマチエールと呼ぶと思っていたのですが、マチエールとは本来絵肌などの材質を指す言葉なのです。色面もただの色の面を指す言葉。私が好きな、この絵の具を積層させて作る色の表現何と呼ぶのでしょう…。ここでは便宜上、ざっくりと「絵の具の重なり」と呼んでみます。
描いて発見する
実際に絵の具の重なりを意識しながら自分で絵を描いてみると、これが非常に奥が深いものでした。
ひたすら自分が好きな可愛い色鮮やかな色を重ねていっても色は美しく見えません。一度 絵を全体的に暗くしてから再度鮮やかな色で絵の具を塗ってみました。すると周りの色の彩度が低いことで塗ったばかりの高彩度の色がより際立って美しく見えました。明度差でも同じことができました。明度や彩度のコントラストが、色をより引き立てる法則を発見しました。
また、色を塗る順番にもヒントがありそうです。絵の具は必ずしも完全な不透明ではありません。 乾いた黒い絵の具の上から黄色い絵の具を重ね塗りすると、わずかに透過した下の色の影響を受けて、黄色い絵の具がどことなく絵の具が緑色に見えます。
逆に 白いところに黄色い絵の具を塗ると非常に色が美しく見えます。その黄色に赤を重ねると、赤は白いところに塗ったよりも美しく見えます。そのような感じで重ねる順番にも、相性の良い・悪いものがある気がしています。
キャンバスの上の凹凸は、制作を進める中でどんどん増えます。
初めはキャンバスのもつ凹凸の2つの高さしかなかった層が、描いていくうちに
- キャンバスの凹んだところに薄く塗った色
- 凹んだところにナイフで塗り込み、元の凸と高さを揃えた色
- キャンバスの出っ張ったところに薄く塗った色
- 出っ張ったところに厚めに乗せた色
と、どんどんと絵の具が積層していきます。
この積層を絵画の中で生かすには、何度も仕事を変えていく必要があります。ここで言う仕事というのは、道具の使い方や絵の具の乗せ方のようなイメージです。
ずっとペインティングナイフだけで凹凸の出っ張っている部分に盛り付けるように絵の具を塗っていたのでは、何度重ねても出っ張っている部分にひたすら新しい色が積み重なるだけで絵に変化は生まれにくいです。「何度も描いているのに前の色が何も残らないなぁ」となっていしまいます。
- ペインティングナイフで優しくなでるように塗る
- 細かい 硬い筆で 点を打つ
- しなる柔らかい筆で表面をなでる
- ペインティングナイフを立てて凹みに絵の具を押し込む
仕事を変えて次はナイフで全体を塗り、小筆で点々と絵の具を置き、 面で線でまた点で…。何度も描く度に発見が会って、これは非常に研究しがいのある、心から楽しめる良い研究テーマに出会ったと感じています。




